ドフジャンク棚にみる普及帯コンパクト史 備忘録
最近は(全盛期に比べれば誤差の範囲とはいえ)多少なりともフィルムカメラでの撮影が盛り上がっているようで、なかでもこれまでほとんど見向きされてこなかった普及帯のプラ製コンパクトカメラが評価されているらしいのが面白いところです。
残念ながら地方在住だとそのあたりのコンパクト機にはほとんど動きがありませんが、一部実用一眼レフ(Nikon FEなど)に相場の上昇が見られるので多少なりとも盛り上がりは伝わってきているようです。
さて、巡回している近隣市町村のハード○フでも銀塩コンパクトの、それも普及帯のプラカメは投げ売りでもほとんど動きがないままですが、ジャンク棚を定点観測しているとここ50年ぐらいの普及帯コンパクトの発展史と各家庭での受容史がなんとなく浮かび上がって来なくもないので、ちょっとした整理を。
あくまで巡回しているハードオフのジャンク棚で実際に見かけた機種基準です。(一部そうでないのもあります。特に90年代後半になってくるとデジカメへの移行が始まるのでこの時期の銀塩カメラはあまりジャンク棚に登場しません。そのかわり、初期のデジカメが大量に並んでいるわけです)
(2017/07/24版)
1.ノブ巻上+目測またはRF + 単焦点+金属製
- 富士フイルム Fujica 35-M(1957)
2.ノブ→レバー(親指)巻上
3.自動露出(AE)
- OLYMPUS AUTO-EYE(1960)
- Canonet QL 17(1965)
- Yashica ELECTRO 35(1966)
4. フラッシュ内蔵+この辺でプラ素材導入開始
- コニカ Konica C35EF(1975)
5.カプセル型のレンズバリア機登場
- OLYMPUS XA(1976)
6.自動合焦(AF)
- コニカ Konica C35AF(1977)
7.自動巻上げ(オートワインダー)内蔵
- Canon AF35M (オートボーイ)(1979)
- Yashica AUTO FOCUS MOTOR(1981)
8.日付同時写し込み機構搭載
- Canon Autoboy2 QD(1983)
9.複数焦点(標準/望遠)レンズ搭載
- Canon Autoboy TELE QD(1986)
10.標準ズーム(2倍程度/パワーズーム)レンズ搭載
- Canon Autoboy TELE QD(1986)
11.このあたりでレンズ銘とF値がレンズ周りから消滅
( ブリッジカメラ登場 → 別の世界線へ )
(「写ルンです」登場(1986) → 別項へ)
12.簡易パノラマ撮影モード搭載機登場
13.撮影モード搭載機登場
- Ricoh Myport 330(1995)
( APS機登場 → 別項へ)
( 高級コンパクト機登場 → 別の世界線へ)
14.超望遠ズームレンズ搭載機登場
- PENTAX ESPIO 200(1998)
一般家庭へのコンパクト受容史を考えると本当は110カメラ、ハーフサイズカメラとディスクカメラあたりも目を配らないといけないですが、あくまで地方のハードオフジャンク棚で取ったメモってことでご容赦ください。(その割にAPSは入っているじゃないかと言われるとあれですが...)
ちょっと腰を据えてコンパクト史をまとめようとしても、現状ではなかなか資料が難しいのです。OEM関係とかになると完全にお手上げです。
これらの機種については次のサイト以上にまとまった資料は有りませんのでご紹介しておきます。
penguin-19's COMPACT CAMERA
コンパクトカメラ専門ページ penguin-19's COMPACT CAMERA
都市伝説の結末 / OM(AF)マウントレンズのOM(MF)機への装着について
さて昨晩、銀塩AFカメラについてそれなりに有名な都市伝説がデマであると確定したのでまとめておきたいと思います。
起点は佐藤さん(@sigeosato )のこの発言。
ところで有名な「OMAF用レンズをMF機に付けると外れない」ってこれホントなの、今更だけど
— 都市農協子 (@sigeosato) 2017年7月19日
この「OMAF用レンズをMF機に付けると外れない」というネタ、今日現在(2017/07/20)で、Wikipedia(ja)のOLYMPUS OMシリーズの項にも記述があります。
現在はマイクロフォーサーズ規格のミラーレス一眼(OM-D)として展開しているOLYMPUSのOMシリーズですが、元々銀塩MF一眼レフの名機として著名で、特に一桁機は今でも人気が高いのは言うまでもないことでしょう。
銀塩OM一桁機については「プリズムがモルトの浸食を受けて劣化する」というのがよく知られた持病としてあり、これは事実です。またその解決策として、同じOMシリーズではあるものの一桁機より人気が薄く安価な二桁機であるOM10からプリズムを移植するという手が紹介されていたりしますが、ジャンクからならともかく実働個体からプリズムを抜き取るのには嫌悪を示すユーザーも多いので、注意が必要でしょう。
さて、この銀塩MFカメラの歴史に燦然と輝くOMシリーズですが、AF時代に突入したときにOM707という機種を登場させています。このOM707は新マウントではなくOMマウントのままでAF化を果たしていますが、このとき一つの変更をしたことがよく知られていて、それが今回の都市伝説の勘所です。
実はMF機のOMシリーズではレンズ取り外し用のボタンがレンズ後部にあるというのが一つの特徴となっていますが、マウントをAF対応させる際、このレンズ取り外し用ボタンを他メーカーの機種でも一般的なボディのマウント側面に移動しています。その結果、OM707とともに登場したAF対応のOMレンズからはMF機のようなレンズ取り外しボタンはなくなっています。
その結果、以下のような論理展開が成立します。
- OMAFレンズをOMAF機(OM707)につけると、当然ボディ側取り外しボタンで取り外せる
- OMMFレンズをOMAF機につけても、レンズ側の取り外し機構で取り外すせる
- そして、OMAFレンズをOMMF機につけると、レンズ取り外し機構がない!つまり取り外しできなくなってしまう!
もっともらしい話ではあります。ですが、実はこんな問題に直面する例は他にいくらでもあり、メーカーが想定していないはずがない話なのです。例えば佐藤さんのこの発言に集約されるように。
たとえばEFとEF-Sみたいに物理的に付かなくする方法っていくらでも存在するわけで、その程度のフールプルーフが存在しないなんて普通に考えておかしいはずなんだけど、何故かそれで当然みたいになってる……(しかも「外れなくなった!」って怒ってる人が存在するという
— 都市農協子 (@sigeosato) 2017年7月19日
TLに実際にOM三桁機を使われているフリスク( @FRlSK1 )さんと日本光学くん( @mouko281985 )さんの反証が上がってきました。
気になって手元のレンズでつけようとして見ましたけど、そもそも装着不可ですね
— フリスク(FRlSK) (@FRlSK1) 2017年7月19日
たぶん、この突起している電子接点が逆付け防止なんだろうかな pic.twitter.com/P2yazvqmK2
— フリスク(FRlSK) (@FRlSK1) 2017年7月19日
OM3桁用の純正レンズをOMMFボディにつけようとすると、カメラ側の絞り連動リング?と、レンズ側の電気接点が干渉してつかないようなしくみになっています。つづく。 pic.twitter.com/tIv8C2abZN
— 日本光学くん (@mouko281985) 2015年7月31日
先ほど、電子接点がフールプルーフなのでは、との主旨のツイートをしましたが、確認したところ電子接点を外してもやはり付きませんでした
— フリスク(FRlSK) (@FRlSK1) 2017年7月19日
もう充分でしょう。
この都市伝説は結構有名で、いま確認する余裕はないですがひょっとしたらなんらかの活字化もされていたかもしれないぐらい広まっています。こんな実機をちょっと確認すればわかる話がなぜここまで人口に膾炙することになってしまったのかと言えば、またフリスクさんの発言で申し訳ないですが、一つにはこういうことがいえるでしょう。
OMAFレンズを持っている人が希少で訂正する人もいなく……みたいな感じですかね
— フリスク(FRlSK) (@FRlSK1) 2017年7月19日
ちなみにレンズはaf zoom 35 70でom707にはMFレンズは付きました
そう、OMAF機は今"希少"なのです。ですが、売れなかったか...と言えばそんなことはないはずです。メーカーが期待したほどであるかどうかは別として流通している中古の数を見ればそれなりに売れたのだろうというのは分かります。少なくともSIGMAのSAマウント機よりはよほど手に入れやすいでしょう。
希少だからこんなデマがはびこったのか?もう一歩踏み込む必要があると考えます。つまりはこういうことです。
広めていきたいですねえ。記憶では2回くらい書いたんですが、まったく広まりませんでした。OM三桁を嗤う時の定番ネタになっているようで、何回も外れないっていう書き込みを見ました。OM三桁愛用者としてとても悲しい…。
— 日本光学くん (@mouko281985) 2017年7月20日
「嗤う」という言葉が重いです。そう、OM三桁機(AF機のOM707とパワーフォーカス機のOM101)は失敗作であるという評価が定着しています。
傑作機とされるMF機OMシリーズに対して、AF化の波に乗り遅れた中途半端な駄作機として世に出、栄光あるOMシリーズの命脈を絶った不肖の子、見れば栄光の"クラシックカメラ"の殿堂入りしたMF機の金属カメラとしての質感と重厚さに比べて、なんと三桁機の安っぽいプラカメぶりよ...自分で書いていて気が重くなりますが、AF機のOMシリーズについてこれくらいのことは思われているだろうという印象があります。
「定番ネタ」という言葉が示すように、この"失敗作"のイメージに対してこの都市伝説はあまりにピッタリはまりすぎていたのでしょう。本当かどうかではなく、"イメージぴったり"だったことがこの伝説を支えたのではないかと思われます。
実際、サードパーティのOMAFレンズをMF機につけた場合はついてしまうことがあるようで、その場合は本当に分解しなければ取り外せない可能性があり、それがこの都市伝説の萌芽である可能性はなきにしもあらずです。しかし、それは間違いなく保証外の行為であって、サードパーティにもメーカーにも責任はないことです。
OM三桁機が本当に"失敗作"だったのか。市場は当時評価しなかったにしろ、今の視点からとらえ返せばまた別の視点から評価されるところが無いか。そもそも、本当に使えないのか。OMのAF機に高まった当時の期待とメーカーの出してきたものとの落差はあったのかもしれませんが、今のユーザーがそれにとらわれる必要も無いでしょう。
OM1桁機も2桁機も3桁機も愛用してるので、信用して頂きたい(笑) pic.twitter.com/oFP2VgLVGF
— 日本光学くん (@mouko281985) 2017年7月20日
実際に使われている道具は常に美しいと思います。私の手元にもOM101のボディはあるのですが、OMAFレンズが手に入らないまま何年塩漬けにしてしまっていることやら(汗)
1960-70年代のプロダクトデザインが再評価されているように、そろそろ80年代のデザインが再評価される時が来ないかと思っているのです。
最近、それが全盛期に比すれば誤差の範囲とはいえフィルムカメラが盛り上がっている様子があり、しかも、ごく一般的な普及帯コンパクトカメラだ!という面白さのある現在、普及帯プラ製AF一眼レフを積極的に推し進める当ブログとしても、過去の情報の焼き直しだけではなく、改めて2017年現在の情報として記事を書いていきたいと、気を引き締めた次第なのでした。
ま、次の更新がいつになるかは神のみぞ知る、というところなのですが...(汗)
私が愛用しているFed / Zorkiなどもそうなんですが、やはり色々デマがあります。これはカメラに限らず車やバイク等でもそうでしょうが、つまりはなにがしかの"伝説"が生まれる余地のあるジャンルはすべからくそういうものなのかも知れませんね。
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MINOLTA α Sweetの分解(破壊)
これまで二桁のα Sweet系列ジャンクを処分してきましたが、偶然捨て忘れたSweet初代が転がり出てきたので分解に挑戦してみることにしました。ジャンクの理由は定番のファインダーの黄変です。まだそこまでひどくはなく、端っこに黄色のにじみが出てきたぐらいですが他に良品は多数確保しているので処分となった個体です。あわよくば簡単な掃除法などが分かればいいなぁという目論見もあったのですが、そんなに都合よくはいきませんでした。
マウントから分解してきます。
口金の奥にスペーサ的なものが三枚あるのがFedやZorkiを思い起こさせたり。レフレックスミラーの反射を通してダハミラーの黄変がはっきり確認されます。
今考えるとこの時点でもファインダーからのぞいたのと比較してはるかに黄変が酷いということが確認できることに気づかされます。
一番確認したいのはダハミラーの黄変具合の実際のところなので、接眼レンズ側からのアプローチも試みますが、こちらは早々にあきらめます。
表やフラッシュ周辺のネジを外しまくったところで…まさかフロントカバーと右グリップが別パーツとは思わずドッキリ。
フロントカバーが外れた時点でレンズ着脱スイッチはグラグラで振ったらバネごと落ちます。
左側面の裏ぶた固定のパーツも脱落。
軍艦部カバーがなかなか外れず悩んだところ電池ボックス奥のネジがポイントでした。
機械式カメラでも巻き上げレバーや巻き戻しクランクから解体していくというのは定番です。これで軍艦部が外れまして、ここで非破壊分解をあきらめました(笑)
この何層にもなったフレキを半田で外していく自信は欠片もありません。サービスマニュアルがあっても無理です。両手を合わせてしばし瞑目したのち、ガシガシ千切っていきますが、かなりしっかり接着してあって、下手なAE機よりもこの辺りは丁寧に作っているような印象を受けます。
この時点でだいぶ内部に光が入ってきまして、ミラーに映りこんだファインダ黄変がよりはっきり確認できるようになってきます。
破壊に舵を切ったので、ファインダ周辺を確認できれば良いと方針を縮小します。ざっとこんな感じに解体し、ペンタミラーを取り出します。
ファインダ回りはこんな感じ。
ううむ、接眼レンズ側からアプローチするのもマウント側からアプローチするのも難しい印象です。後者だと疑似パノラマ撮影機構が邪魔をします。が、このあたりはもう一、二台狙いを定めて分解すると行けるかもしれません。
ペンタダハミラー周辺部分ですが酷い黄変とともに青変も併発していました。綿棒で掃除してみましたが少しの掃除でごまかせるようなクスミや変色ではありません。マウント金具側からアプローチできたとしても対処は難しく思われます。
最初に触れたようにファインダからはここまで酷くは黄変が現れていない状態なので、ファインダに黄/青変が現れた時点では実はかなり進行しているのかもしれないという恐ろしい仮説が導き出されます。ファインダー像に黄変/青変が現れていなくともマウント側からレフレックスミラーに写してみると、実はダハミラーの酸化が確認できる個体も多いのかもしれません。かといってなにも取りうる手段はないのですが。
(今日の結論)
Sweet系に代表されるαダハミラー機のファインダー変色という問題は、ファインダー像内にそれが現れた時点で実はミラー周辺部の酸化=変色は相当進んだ状態で個人での対処は難しく、選択肢としては我慢して使う、またはケンコー・トキナーで正規のサポートを受けるのどちらかであるということになります。
なお、二年ほど前にケンコー・トキナーの正規サポートでα Sweet IIのファインダーを交換していただいたときは確か一万円くらいだったはずです。このときはパノラマ機構の不調も合わせて調整していただいたので単体ならまだ安いかもしれません。ただ、電装系がおかしかった別のα Sweet IIのサポートをお願いしたときにもうかがったのですが、αシリーズの各種補修部品は払底しているものもあるようです。
ただ、取り出したペンタダハミラーをのぞき込むと、周辺部の変色はともかく下手なペンタプリズムより美しく明るい反射で、ミノルタの意気込みを感じさせられました。きっとその素材の選択基準がこの褪色と表裏となっているだろうことは想像に難くありません。
まぁ、そういう"振り切ってしまう"会社だったのでしょうね、きっと。
入門機クラス銀塩AF一眼レフシリーズのお勧め度の比較 その3「PENTAX MZ(二桁)シリーズ」
PENTAX MZ-50 + PENTAX-F 4-5.6/35-80 + KODAK ULTRAMAX400
こんな感じでやってます
この記事を書くに当たっての基本姿勢についてはこちらをご覧ください。
また、「いまからフィルムで撮ってみたいという人にEOS Kiss シリーズ(具体的にはIII / III L)をお勧めする5の理由」もご一読いただければ。
入門機クラス銀塩AF一眼レフシリーズのお勧め度の比較
裏タイトル「EOS Kissシリーズ以外が初心者にお勧めでないちょっとした理由」の最終回です。各社の登場順は私が巡回しているハードオフや委託販売を行っているDPEでの目撃数によります。というわけでこの記事での3番手、お勧めのEOS Kissから数えれば4番手はPENTAX MZシリーズです。
MZシリーズのおすすめ具合
さて、最終グループのPENTAX MZ(二桁)シリーズですが、結論から先に言います。「絶対におすすめしないよ!!さぁ使ってみようよ!」。うう、どう頑張ってもこんな矛盾した感想になるんですよね。
(状態が)危険なPENTAX AF一眼レフ
あくまで「デジタル一眼レフの経験はあり、今から35mmフィルムでの撮影を始めてみたいという初心の方向け」という視点での話、というのを念頭に置いていただきますと、シリーズ初代のMZ-5無印の登場から20年が経っておりまして、ミノルタαシリーズと同じくMZシリーズも経年劣化という大砲の直撃を喰らっています。
プラ製AF一眼レフでは(というかデジタル一眼レフでもいずれ)避けては通れない問題であるゴム素材の加水分解(ボディがベタベタになる奴です)からは免れているものの、α-Sweetの宿痾がペンタダハミラーの酸化による変色なら、MZシリーズの宿痾はミラーとフラッシュを制御するプラ製ギアそれぞれの劣化による破損です。特にミラーアップの方はMZシリーズだけでなくて、ペンタックスにおいてはMF時代から続く問題です。
そんなわけで、MZシリーズに限らずPENTAXのプラ製AF一眼レフのジャンク棚物件については、初心者はまず「回避」を推奨します。
一見まともに見えるものでも、持ち帰って電池を入れて、ワクワクしてシャッターを切ったその瞬間に「バコッ」だの「ガコッ」だのと形容しがたい怪音を残してミラーアップし、昇天したのは私の手元だけでも一台や二台ではないのです(涙)。
もちろん、これは発売時点からそうであったという訳ではなく、そこから10年以上経ってメーカー保証もとっくに切れた現在だからこそ顕在化した「問題」です。2016年の現在まで使い続けられていることをメーカーは想定していないし、メーカーの責任ではない括弧付きの「問題」であることを肝に銘じておく必要のあることは繰り返し強調しておきます。
そんなわけでざっくりMZ(2桁機)シリーズのお勧め度をまとめておきます。
3番手 PENTAX MZ(2桁機)シリーズのお勧め度
○ 悪くないファインダー
○ MF機を彷彿とさせるハンドリング
△ 操作性がシリーズ内でまちまち
× 弾数少か極少
× 価格やや高め
× 格安レンズ少ない
×× バージョン違いの多いKマウント
×× ミラーアップ・フラッシュ不良個体多数
ジャンクコーナーのペンタックス機には「絶対に」手を出すべきではありませんが、MZシリーズ自体は良いカメラで、MF時代のペンタックス機を思い起こさせるコンパクトかつシンプルなハンドリングで、非常にリズムの良い撮影体験をもたらしてくれるのは確かなので、興味のある向きは保証付きの専門店で実機を手にとって選ぶのをお勧めします。
余談 その1 ふしぎなMZシリーズ
ここからは余談。
そんなMZシリーズですがそもそもジャンク棚ではあまり見かけないし、その結果として決して安くありません。対照的にジャンクコーナーを埋め尽くしているKissシリーズと比べて、現役当時は肩を並べるくらいに売れていたという記述を読んだこともあるのですが、その実、単体のムックなどはどうやら発行されておらず、MZシリーズがどんな層にどのように届いていたのか、今となってはなかなか見えづらいものがあります。
売れに売れてPENTAXに我が世の春をもたらし、645や67機を開発する原資になったという記述も目にしたこともあるのですが、眉唾なのでしょうか?
またCanon Kiss、MINOLTA α Sweet、Nikon Uと、それぞれの普及機・入門機としてのシリーズの性格付けは明確で(もちろんそのスペックはとても普及機というものではなく時に中級機にさえ凌ぐものでしたが)、まず届けたいのはファミリー層であるというメーカーの意志はそのネーミングからも明確であったのに対して、MZシリーズはそのあたりがどうもはっきりしないというわかりにくさがあるのです。
そもそも最初のMZ-5(1995)は「中級機」です。それ以前の自動化を進めたZシリーズの方向を転換してもう一度シャッター速度や露出補正をダイヤルで設定するクラシックな操作性を、MF時代のPENTAX機を彷彿とさせるコンパクトなボディに実現しています。当時、ミノルタの自動化を極北まで進めていたxiシリーズが商業的に失敗し、第四世代のsiシリーズに転換したことが支持を集めていたというのもあるのでしょうし、実際PENTAXの転換は支持を集めた(らしい)わけです。
そのあと廉価機のMZ-10(1996)に、そらにその廉価機のMZ-50(1997)といった2桁のナンバリングのMZシリーズが出ます。Kissモードダイヤルに相当する(オート)ピクチャープログラムを採用した辺り、またペンタミラーの採用やエンジニアリングプラスチックのマウントなど、この2桁機こそが他社の普及機にぶつけようとしたクラスなのは間違いないでしょう。
次のMZ-3(1997)は再び一桁の中級機で、ダイヤルによる操作性などMZ-5のブラッシュアップ版。ここまでは分かり易くて良いのです。あ、ちなみにキチンとした保証付きで3,000円くらいまで手に入るなら、いずれMFやマニュアルでの撮影に進んでいくうえで、このMZ-3を一番お勧めします。なお、Wikipediaには堂々と"CONTAX Aria(1998)のベース"と書かれていますが、ガセですね(そういう噂があったのは事実のようですが)。
ところが、次のMZ-7(1999)は1桁のナンバリングで位置づけとしては中級機なのですが、系譜としてはMZ-10からの進化版です。もちろん中級機でもよりマニュアルな操作性を採用した3,5とモードダイヤルを採用し、よりプログラムオート寄りのチューニングがなされた7はキッチリ棲み分けがされていると言えなくはありません。が、3,5,7のナンバリングに意味を見いだすのには少々難しさを感じるところ。
そして、そのMZ-7をベースにして進化と言うべきか退化と言うべきか、再度、普及機のMZ-30(2000)が登場します。10→50(→7)→30と、ナンバリングが巻き戻っています…このあたり、私にはどうも理解できないでいます。いや、これで50よりスペックが上というなら30も分からなくはないのですが、決してそうとばかりも言えないし、中級機の3→5(5N)→7と関係性が見いだせないし、それ以前のZシリーズとパラレルな訳でもなし。
ちょうどZシリーズに触れたところで、ここからさらに混沌度合いが加速していきまして(笑)、むしろ先代のZシリーズの系譜からハイパー操作系の血を引いた突然変異の"特別機"、MZ-S(2001)が登場して、いよいよMZシリーズの性格が何でもありになったと思ったらMZ-7の後継機はMZ-L(2001)を名乗って登場するといった次第です。
このL、SがSpecialかまたはSuperあたりから名付けられているのに対して、Limited(=限定版)あたりが元だと思っていたらなんと"LOVE"らしいのです。MZ-Sは確かにその他のMZシリーズとは別個のラインから登場してきたのだというのがデザインからも明白ですが、MZ-Lは思いっきりMZシリーズのデザインのラインにのっていまして、正直どこがLOVEなのか私にはまったく理解できません(教えてペンタキシアン!)。
こんな感じでZシリーズの"後を襲った"MZシリーズというよりは、MZシリーズというミクロコスモスのなかで改めて百花繚乱の進化の系統樹を生み出してしまっている様な印象があるのです。
最後にはMZ-30というよりは50の更に廉価版、ミノルタでいえばα-360siのような、プログラムオート専用機MZ-60が出て終了です。*istは別シリーズと考えております(恐竜の子孫としての鳥、みたいな)。
余談 その2 ペンタックスというブランド
PENTAX MZ-50 + PENTAX-F 4-5.6/35-80 + KODAK ULTRAMAX400
そんな訳でMZシリーズは機種ごとの性格も明確に線引きされているとは言えませんし、途中でマウントの変更なんかもあっていることから、この機種まではこのレンズが使えるけれど、次のこの機種からはこのレンズは使えない!っていうのもあって初心者向けとしてはやっぱりオススメできないところではあります。まぁ、これはNikon Uあたりにもあてはまることですし、歴史のあるマウントの宿命かもしれませんが。
別の角度から見れば、すっきりと整理されないってことは、それぞれの機種のなかで諸要素が固有のバランスと魅力を持っているとも言えまして、なんというか私はペンタックスに詳しくないのですけれども、スゴく泥臭いイメージというか、あまりクレバーでは無く色んなアイディアを試してはそれを成熟させる前に他に飛びついて言ってしまう様な、ある意味ではアイディアに溢れた職人集団が嬉々として開発にいそしんでいるようなイメージを持っています(この辺り、様々なアイディア・デザインを一機種ごとに使い捨てにしていったコンデジOptioシリーズのイメージが還流しているかも知れません)。
なお、忘れてましたが1997年にはMF専用機のMZ-Mが出ています。実はMFからAFへの過渡期にはCanonのEF-M(1991)とかNikonのF-601M(1990)といったAF機をベースにしたMF専用機が出ていますが、1997年というAF全盛期に、これがうるさがたのマニア向けの高級仕様というならともかく、MZ-3(または5)から色んな機能を省きまくったあげくむしろ2桁機よりの質感になったという機種で、なぜこの時期に、どんなユーザーを念頭に置いて出してきたのかよく分からないのです。そういうところも、なにかこのメーカーの生き様のようなものを感じてしまうところなのです。
おまけ
CAPA編集部さん『ペンタックス一眼レフのすべて (Gakken Camera Mook)』の出版を熱望します!もう少し客層を広げるなら『Kマウント一眼レフのすべて』もありかと!
入門機クラス銀塩AF一眼レフシリーズのお勧め度の比較 その2「Nikon Uシリーズ」
こんな感じでやってます
この記事を書くに当たっての基本姿勢についてはこちらをご覧ください。
また、「いまからフィルムで撮ってみたいという人にEOS Kiss シリーズ(具体的にはIII / III L)をお勧めする5の理由」もご一読いただければ。
入門機クラス銀塩AF一眼レフシリーズのお勧め度の比較
裏タイトル「EOS Kissシリーズ以外が初心者にお勧めでないちょっとした理由」の続編です。各社の登場順は私が巡回しているハードオフや委託販売を行っているDPEでの目撃数によります。というわけでこの記事での2番手、お勧めのEOS Kissから数えれば3番手はNikon Uシリーズです。
Nikonの35mmフィルムを使った一眼レフは"F"を冠します(APSフィルム一眼レフはPRONEA)。実際、Uシリーズも海外ではFシリーズとしてナンバリングされます。国内ではCanon KissやMINOLTA Sweetと同カテゴリーであることを明示するシリーズ名を名乗った訳です(実は、α SweetやEOS Kissも、海外では別名義で販売されています)が、この「U」というネーミングは、"「遊び」「優しさ」「友だち」「みんな誘って」そして「With You」などのいろいろな「U」にちなんだ親しみを込めたネーミング"なのだそうです。さて、その狙いは達成されたといえるのでしょうか。
2番手 Nikon U シリーズのお勧め度
このムックからするとU、Us、F80までが同じカテゴリと言えるのでしょうか(なおこのムックの出版時点でU2は出ていません)。
- 出版社/メーカー: 日本カメラ社
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○ 充実したスペック
○ 洗練されたデザイン(Us以降)
△ 狭く見難いファインダ
× 弾数少(特にUs以降)
× 価格高め
× 格安レンズは見つけづらい
× 普遍"ではない"Fマウント
○ 現代一般的な操作性
左肩のモードダイヤル主体の現代一般的な操作性です。マニュアル無しでも現在のデジタル一眼レフのどれかを触ったことがある人なら迷うことはないでしょう。Pモードまたはモードダイヤルでガンガン撮れます。
○ 充実したスペック
前回ミノルタαシリーズの項でも述べましたが、この時代の普及機はもう機能てんこ盛りです。それがモードダイヤルという分かり易く共通の操作性に収斂しているのがスゴいのです。あえて言うなら不満はシャッタースピードくらいのものでしょうか。それでも1/2000で困る人は、これも前回書いたとおり、今や格安で売ってるプロ機を買ったほうが幸せになれます。だとしてもUシリーズは軽快なサブ機として十二分に働いてくれるでしょうから無駄になりませんよ!
○ 洗練されたデザイン
UシリーズはU、Us、U2の三機種のみです。全て筐体デザインが違い、特に初代とUsの間で大きな変更がありました。初代のUは平成13年度のグッドデザイン大賞を受賞していますが、本体のみでは微妙に感じます。しかし、共通のデザインでセット販売されたズームレンズを付けるとかなり印象が良くなります。
Nikon U(Sliver) + AF Zoom Nikkor 28-80mm/F3.3-5.6G(Silver)
Nikon Us(Sliver) + AF Zoom Nikkor 28-80mm/F3.3-5.6G(Silver)
Nikon U2(Silver) + AF Zoom Nikkor 28-100/3.5-5.6 G(Silver)
Nikon U2(Black) + AF Zoom Nikkor 28-80mm/F3.3-5.6D(Black)
このシリーズは特に合わせるレンズで印象が変わるように思います。
Nikon U2(Black) + SIGMA 28-70/2.8-4 D
Nikon U2(Silver) +AF NIKKOR 35-70/3.3-4.5
個人的にはUsやU2のシルバーボディにAi Nikkor 45mm F2.8Pのシルバーをフード付きで合わせたりするとグッときそうです(この記事の狙いからは逸れてしまうお値段になりますが)。
- 出版社/メーカー: ニコン
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U、U2のボディ側マウント金具にエンジニアリングプラスチックではなく金属を使ったというのはメーカーのこだわりとして評価する向きがありますが、これについてはどうかな?と思います。
全体の剛性とか他の部品の耐久性を考えないと無意味かなと。例えば次の記事であつかうペンタックスはプラ製ギアの破損という持病を抱えています。まさかこのボディに超重量の望遠レンズを付けるというのはメーカーが明確に打ち出していた購買層からも外れているでしょうしそれで強度云々をするのはどうかと。ちなみに私がこの三機種の中で一番好きなのはUsです。
△ 狭く見難いファインダー(デジ普及帯APS-C機並)
私は自分が撮影するカメラとしてはUシリーズが苦手なのですが、その一番の理由がこの、倍率が最大で0.67倍という、APS-C機並の狭さのファインダです。しかもU2では、そのただでさえ狭いファインダ内でAF合焦のスーパーインポーズが派手に赤く発光します(派手すぎてどこが合焦点か分かりづらいほど)。正直、ちょっと困ります。せめてこれが目に優しいグリーンならば(キャノンと被りますかね?)。
AFが一般化し、ファインダーは構図の確認さえ出来ればよく、合焦はカメラに任せるという発想を突き詰めるとこのファインダーになるのかな、と。
実際、手動でのフォーカシングには私は0.8倍は欲しいところなのですが、逆に瞬間的に構図全体を把握するのは難しくなります。そういう意味で0.7倍程度の倍率は一瞬で全体を把握するには悪くない倍率なのです。さすがにUシリーズのは小さすぎると思いますが、信頼性の高いAF任せでガンガンシャッターを切っていく速写性を求めるならこれもありだとは言えます。
さらに視野率も89%と、視界の周囲一回りに余白が生まれることを把握しておく必要があるわけで、レンジファインダーやコンパクト機ならともかく、一眼レフでこれはなぁ、と思います。
しかしこの点も別の角度から考えれば、ターゲットのファミリー層が基本的にL版にプリントしたであろうと考えられるので、フィルム上の撮影範囲と実際のプリントとのズレを考慮して、あえてファインダー像を狭く抑えておいたという深謀遠慮があるとも考えられなくはないのです。
少々好意的解釈が過ぎるでしょうか(笑)。
× 弾数少(特にUs以降)/価格高め
ハードオフのジャンクコーナーでUシリーズを見ることはまずありません。まだF三桁(401・601辺り)の方が見かけます。しかし、初代のUまでならカメラ委託をしているDPEでは見かけることもあります。そう考えるとUシリーズはメーカーの想定したファミリー層ではなく従来のニコンユーザーのサブ機として売れたのではないでしょうか。
そんなわけで委託品はもちろんのことジャンクコーナーでも決して安くはありません。例え一台見つかっても値段の設定は高めであり、さらに代替機まで入手することは難しいです。あえて狙うならヤフオクである程度機材がまとまった状態を落札するか、専門店の在庫を狙った方がよいでしょう。この時代の普及帯AF一眼レフにはまともな値段がつかないのでかえってヤフオクあたりより安く出ていることもあります。もちろん専門店のチェックを経ているので安心感はずっと上です。
× 格安レンズはほぼ無い/普遍"ではない"Fマウント
Fマウントレンズは人気ですから比較的安価なシグマやタムロンの標準ズームであってもそこそこ高めの値付けです。もちろんジャンクコーナーですから値段もたかが知れてはいますが、なにせすぐに売れてしまうので在庫が潤沢とはいかないようです(もちろんDPEや専門店には潤沢にありますが、値段は更に高く(真っ当)になります)。
そしてNikonについて語られる「不変のFマウント」というのは相当留保を付けないといけない表現だと思っています。物理的には確かに装着できますが、特にMF時代のレンズは実際の使用にあたっては大幅な制限があります。初心者にとっては分かりづらく、システムを"安価に"充実させていくにあたっては少々おすすめしにくいところです。もちろんこの辺りを調べるのが好きという方にとっては何ら問題にならないところで、むしろ知識を広げていく手がかりになる可能性もありますが、この記事の狙いからははずれます。
なお、標準ズームとしてセット売りされたAF Zoom Nikkor 28-80mm/F3.3-5.6GやAF Zoom Nikkor 28-100/3.5-5.6Gは本気で使っている人には隠れた名玉としてなかなか評判が良いようです。先ほども来たとおりデザイン的な一体感は高く、Fマウントのレンズとしては比較的安価に流通しています。世界で170万本以上売れたという記述を見て目が点になりましたが、Uシリーズもそれくらいは売れたのかしらん…
総論
流通量が少なく見えるのはむしろハードオフ等に放流する層ではないところに届いてた、と考えるべきなのかもしれません。本体と標準ズームのセットなどの出物が安価にあれば、個体としての弱点は特に聞きませんから、気に入ったら選択肢とするのはありでしょう。気に入る人にはなかなかの訴求力があるようで、前にも書いた通りある若者は当時私の手元に一台だけだったU2をもぎ取っていきました。このクラスのカメラ・レンズとも、そもそもどれも安いのであって、高いといってもしょせん大学生の飲み会一回分なので、使ってみたいと思ったら即座に試してみて、駄目なら駄目で良い経験をした!と思ってまた別の人にプレゼントというのもありではないかと思います。
それにしても、その時点ではもうU2を買うことはないのだろうなぁと思っていたのが、U、Us、U2×2と揃ってきているからふしぎなものです。
実は以前にもこのブログでU2については少し書いていまして、今回の記事はその焼き直しめいた部分はあります。
個人的にネックとなるファインダーの視界の狭さですが、いまなら適合するマグニファイヤーが純正からサードパーティまで単機能のものから多機能なものまでいくつか選択可能で、本気で使おうとすれば2016年だからこその可能性はこのカメラの前にも様々に開けているように思われます。
今回はちょっと書きすぎました。次のペンタックスMZシリーズは短くいきます。