書肆萬年床光画関係資料室

写真史や撮影技術、カメラ等について研究趣味上のメモ置き場

いまからフィルムで撮ってみたいという人にEOS Kiss シリーズ(具体的にはIII / III L)をお勧めする5の理由(16.08.14版)

いまからフィルムでの写真撮影をしてみたいと思い立った方に相談を受けることがあるのですが、2016年8月14日現在で私が自信を持ってお勧めする一番のカメラはCanon EOS Kissシリーズです。

キヤノン一眼レフのすべて (Gakken Camera Mook)

キヤノン一眼レフのすべて (Gakken Camera Mook)

値段と入手性の容易さから特にお勧めしたいのはIII / III Lですがもちろんシリーズのどれでもかまいません。レンズは標準ズームであれば純正・サードパーティーレンズのどれでも良い結果が得られます。


写真はEOS Kiss III LとSIGMA ZOOM 28-80/3.5-5.6 MACROの組み合わせですが、このハードオフジャンクコーナーで捨て値で転がっているこの組み合わせこそが最も安価に、短時間で、確実に、素晴らしい結果が手に入る組み合わせです。これでフィルム10本を撮影(240〜360ショット)して10枚を選べばちょっとした展示ができます。

写真展を開く!―「写真の学校」

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デジタルカメラの時代になってもEOS Kiss Digitalとして確固たる立ち位置と思想、デザインを引き継いだモデルが高い人気を誇っています。

と同時に、"玄人"な方々からは軽く見られているところがあるのも事実。そして素晴らしいカメラであるにもかかわらず、決してそのポテンシャルを充分に発揮した使われ方をしていない場合が往々にしてあるというのも確かなところでしょう。ちょっと分かってくると何故か少し持っているのが恥ずかしくなってしまう…そんなところがあるかもしれません。デジタル時代になってもこういうところはあまり変わってませんね。

銀塩EOS Kissは初代が1996年の登場で、お勧めする三代目EOS Kiss IIIが1999年、III Lが2001年とまさしくフィルム最盛期の機種であり、フィルムカメラとしては究極の完成形のひとつです。私にとってはついこないだのことなのですが、今からフィルムで撮ってみたい!と思い立つ様な若い方にとってはひょっとすると物心つく前ということなのかも知れません(流石に生まれる前ってことはない…ですよね?)。しかし、この完成形といっていいようなカメラ達も決して当時から今まで正統な評価を得てきたとは言えないところがあります(メーカーもそのような売り方はしていなかったのです)。

これらのEOS Kissの本来的な価値を引き出し、傑作を撮ることができるのはひょっとしたら当時の状況を知らずまっさらな気持ちで新しく手にとることができる皆さんなのかも知れないと、そういう風に思うところがあるのです。

EOS Kiss シリーズがお勧めな理由 その1

まずなんと言っても安いことです。ハードオフのジャンクコーナーで、程度の良いものがワンコイン以内で手に入ります。お勧めのIII Lでもグリップのべたつき等があるなら324円から美品でも540円くらいであります。108円も充分狙えるでしょう。

対応レンズも28-90mm前後の標準ズームが純正・サードパーティ(SIGMAならマクロ付きも!)がこれまたワンコインで入手できます。

20年近く前の電子機器ですから、残念ながらどんなに状態が良くとも突然に不調になることはありますし、デジタルカメラがそうであるように電子化されたカメラは初心者がトラブルに対応することは難しいです。しかし、レンズでもカメラ本体でもまったく同一機種を即入手できるのはかなり心強いことでは無いでしょうか。ハードオフのジャンクコーナーでそのまま朽ちていくだけだったところが一瞬でも通電して撮影に使ってもらえたらなら、感謝こそすれ恨まれることは無いでしょう。ガンガン使ってあげましょう。

なお、ヤフオク等の使われなくなったユーザーからのセット出品ならジャンク単体より安いこともあり狙い目で、上手くいけば標準・望遠ズームレンズセット、カメラ本体、ストラップ、付属品・説明書類、カメラバックなどついて3,000円以内で手に入ることがありますが、動作確認できているかだけはチェックした方が良いでしょう。

最初はジャンクのカメラとレンズ本体だけでも充分です。もちろん、今が格安とはいえそれぞれほんの少し前まで数万円で売られていたことを忘れないようにしましょう。費用対効果は抜群です!108円のジャンクカメラではなく、5万円のカメラと2万円のレンズを持っていると胸をはりましょう。それでも安すぎる位なんですから!

その2

惜しみない機能てんこ盛りで何でも撮れる傑作機であることです。EOS Kissの源流となったEOS 1000(1990年)は一眼レフからステータスを奪い去ったカメラと言われます。そこから代を重ねて10年近くを経たIII/III Lで撮れない写真はありませんシャッタースピードは1/2000とまずまずのものでAF測距点も7点とスペックは中級機です。あとはそのスペックを引き出せるかどうか、あなたの腕と発想にかかっています!

その3

とても軽く、小さく、動作音が本当に静かなことです。プラスチック筐体のメリットで、III / III Lでなんとたったの355gしかありません。レンズをつけても本当に軽い。それでいて決して質感は安っぽくありません。デザインの流行からすれば一時は野暮ったく見えたのは事実ですが、そろそろ一周回って充分にかっこよく/可愛く見える様に思います。とくに優しいシャッター音を聞くとリラックスして静かな気持ちで被写体に向かえる様に思えます(個人差があります)…というのは冗談ですが。でかいカメラでバシャバシャやるというのは、撮っている本人にとって気持ちが良いというのは分からなくは無いのですが自己満足のきらいもあり、今の時代だからこそ使いたい優しいカメラに思えるのです。

その4

使い方が現在のデジタル一眼レフといっしょなので、デジタル一眼レフを使ったことがある人はなんの違和感も無くすぐに銀塩EOS Kissを使いこなすことができます。 もちろんこれは歴史的経緯が逆な訳ですが、この場合そこは重要でないので突っ込みはご容赦くださいね。

デジタル一眼レフの隆盛とパラレルな後期5、7、Liteは背面に情報ディスプレイ等が追加されたりしてマニュアル無しでは使いにくい(余計な情報に気を散らされる)ところがあるので、そのあたりもIIIまたはIII Lをお勧めする理由ではあります。

その5

そして、フィルムでの撮影を楽しむうえで私がその入り口として普及帯AF一眼レフをお勧めする一番の理由がこれなのですが「35mmのネガフィルム(135フィルム)で適正露出で撮影された写真がどのような描写になるのか」を確実に教えてくれることです。もちろん現代のレンズを使うことが前提ですが、EFマウント(Canon EOSシリーズのマウントの呼称です)のレンズは全て現代レンズなのでここを気にする必要が無いというのもあります。

もちろん、将来的に機械式/電子式のMFカメラやオールドレンズに進むこともあるでしょう。個々人の肉体による「撮影」という身体的行為はこれを使えば解決!という絶対の答えを決めさせませんから。しかし、それらのオールドレンズの描写が、果たしてそのレンズの描写として"正しい"のかどうか(モノクロフィルム時代のオールドレンズをカラーネガで使うと、かなり濁った色味になることが往々にしてあるのです)を判断するためにも、まずは現代のネガフィルムでの最新の正しい描写を知っておくことで自分の中に確固たる基準を整えることができます。

この入り口部分を間違えると、高度な光学と化学の結晶である銀塩写真であるにもかかわらず「フィルムは思った様に写らないから面白い!」というちょっと困った袋小路に入ってしまうことになりかねません。正直、その自己流路線はあまり幸せな方向にすすまないように思うのです。

終わりに

とりあえずEOS Kissシリーズをプッシュする理由を並べてみました。具体的な入手の仕方や使い方、そして肝心の写真とは何かと現在の写真をとりまく環境についての問題(と私が考えるもの)についてはまた項をあらためて書いていきたいと思います。

その前に、なぜどれもだいたい同じスペックを獲得していてそれぞれに個性的かつ魅力的な存在である他社の普及帯AF一眼レフをお勧めしないのかについてをちょっと書いておきたいと思います。私自身、このクラスで一番好きなのはMINOLTA α Sweetシリーズなのですけれども登場から20年が経ち、シリーズごとに色々な問題が出来しています。

(ま、お薦めするにしてもKissやせいぜいα Sweetを除けば単純に球数が違うというのが確かなのですけれども。