Fed(I)のマウント金具を交換してLマウント互換にする話 その1
※ 以下の記事は2014年の原稿を元に再構成したものです。ソビエトのカメラ・レンズ史または写真史については国内に信頼に足る文献は少なく、伝聞に基づいた記述があることをご承知おきください。
2014年当時入手はしたものの放置していたFed(I)のボディがありました。これが初期の型というのがくせ者で意外に知られていないのですがFed(I)の初期型は所謂Lマウント(L39マウント / ライカスクリューマウント)互換ではないのです。
まずマウント金具のねじ切りが違うためLマウントレンズはスムーズに取り付けられません。そのためフォーカシングレバーがあるようなLマントレンズを付けるとレバーが明後日の位置に来てしまったりします。一時期のオークションではそういう個体がたくさん観測できました。
またやっと取り付けたとしてもそもそもフランジバックがLマウントと比べて若干短く、そのままだとピンぼけ写真を量産してしまうことになります。
これは質の悪いコピーだから精度が出ないというのでなく板金時代のライカも特に初期の機種ではレンズとボディーはセットで調整されていて、レンズが取り外せてもほとんど専用機だったというのと同じ事情のようです。
つまりライカのスクリューマウント(Lマウント/L39マウント)が確立する以前の一台一台レンズとボディをセットで個別に調整した時代の作法をそのまま律儀に導入してしまったと言えるのかも知れません。
Lマウントのフランジバックは28.8mmですが戦前のFED(I)のマウントは28.2から28.5mmの間のようでこれに経年劣化による変動が加わります。したがってこれにLマウントのレンズをつけても正常に撮影は出来ません。90年代ごろのカメラ・レンズ本には「ソビエトのレンズはどこにもピントがこない」「絞り込んだら使える」などということを平気で書き散らしたものがありました(どこにもピントがこない時点で前提を疑うべき)。現在広まっているソビエトカメラ・レンズまわりの"常識"はこのころの質の悪い記述の更に劣化コピーだったりするので注意が必要です。
といってもかなり長い期間にわたって生産されたFed1は後期(戦後)になるとフランジバックとねじ切りがライカ互換になりますし、また戦前モデルであっても中古の販売店がライカ互換に調整していたりするので、ボディを単体で入手すると適合するレンズを手に入れるのが少々手間になるのです。
先の事情で戦前モデルであればフランジバックが一律というわけではないらしく、またレンズとボディのセットを求めてもそれが最初から組み合わせられていた(キチンと撮影できる)セットとは限らないという次第で、時期的に合うはずの戦前のレンズを手に入れてもレンズ単体でLマウント互換に調整されていたりしてうまく合うものが探せないでいました。
Fed3のマウント(Lマウント互換)との交換
そういう次第でボディだけ手に入れたものの合うレンズを手に入れられないでホコリをかぶっていたのですが、あるとき手元のFed3に故障品が出て分解したもののうっかりパーツを無くして修理が不可能になってしまいました。
そこでFed(I)とFed3とのマウント金具との交換を思いつきました。上手く交換できればとりあえずLマウントのレンズを取り付けるだけはできる様になるはずです。
なお戦前のFedのフレームは真鍮のため分解すると歪み、精度が落ちていきます。かなり精度の悪くなった個体も流通しています。いずれにしろ分解は自己責任でお願いします。
さっそく分解にかかります。まずボディシェルからフレームを抜き出します。距離計連動アームの金具がくさび形のものになっているのがわかります。初期型のFedの特徴です。
ボディシェルをマウント側から覗くと圧板の仕組みなども分かって面白いです。また、シャッター幕がかなり劣化していたことがわかってのちに応急処置を色々試しましたが最終的には修理店に相談しシャッター幕の張り替えをお願いしました。
また"ソビエトのライカコピー機は金属ボディに直接シボ皮風の模様がモールドされて、その上から塗装されている"なんていうのも当時の適当な記述が生み出したデタラメですが、実際には樹脂が貼られていることはこの摩耗したネジ周辺からも分かります。この個体の所有者だった異国のユーザー達も散々個人で調整を繰り返してきたのだろうことを感じさせます。
作業自体は一時間弱で交換終了です。右奥に写っているのはフランジバック調整用の紙製のスペーサーです。Fedに限らずバルナックライカの系統はこの様なスペーサーでフランジバックを調整しています。
この写真に写っているモノはマウント全体を覆う形のモノですが、マウントのごく一部にスペーサーが噛まされている場合もあり、分解の際はどの位置にスペーサーが挟まっていたのかを記録しておかないと実写で片ボケを起こして詰みます。絶対に記録しておかなければならないポイントです。
さてこのFed(I)のフランジバックはLマウントより短いものと予想されるので、このときはマウントを取り出したFed3のスペーサーも合わせた4枚をとりあえず挿入しておきました。0.2mmをかさ増ししたことになります。
結果からいえば実はこのときはこれでちょうど良かったのですが、本来はデプスゲージなどで計りながら実際に入れる枚数を調整することになります。Aki-Asahi.comではLマウント用のPETフィルム製フランジバック調整スペーサーを販売しています。これを利用するのもよいでしょう。
フォーカシングレバーが本来の位置に納まってディスプレイ用としては充分な感じになったのが冒頭の写真です。Fed3のマウント金具のため、上から覗いたときにはちょいと空間ができるのはご愛敬ですが底蓋から覗いてみる限りで光漏れなどの問題はない様子です。
このあときちんと撮影できるようにするためにはフランジバックおよびレンジファンダーの調整という工程がまっています。距離計カムも調整が必要になるかも知れませんが元々調整用のスペーサーを噛ませることも多いことを考えると実用上はあまり厳密に考えなくてもよいかもしれません。
今回はここまで。