書肆萬年床光画関係資料室

写真史や撮影技術、カメラ等について研究趣味上のメモ置き場

APS(IX240)フィルムでの撮影についてちょっとしたまとめ 2017年版

(注 2018.01.05)

この頁は2017.08当時のAPSを取り巻く状況をまとめた頁です。情勢はその後大きく変化してAPSを使うなら今しかない!」というぐらいの状況が出来しています。 APSフィルムが期限切れであることなどはこの記事でまとめた通りなので期限付きの状況ではありますが。取り急ぎ、サークル先進写真機構のK.I.Mさんが著書の頁を公開してくださっていますので、まずはこちらをごらんくださいませ。

 K.I.MさんのAPSカメラ本は横浜の「カメラはスズキ」横浜ジョイナス店での委託販売やご本人のブログから製本通販.comを通して購入可能です。大変な力作ですから是非手に取ってみられてください。APSに興味をもたれた貴方なら、間違いなく刺激的な作品です!

blog.livedoor.jp 

 

C92新刊 サークル先進写真機構「APSフィルム一眼レフのすべて」勝手にサポートコーナー

C92がそろそろ終わろうとしています 参加者の皆様お疲れ様でした。

Twitterで知遇を得たK.I.Mさんが先進写真機構というサークルを立ち上げAPS一眼レフの全機種解説本と写真集を引っ提げて参加されていまして、そこに応援ペーパーを寄稿させていただきました。

重鎮というのはまったくの勘違いで、ペーパーを読んでいただいた方にはおわかりの通り、私自身が最近になってあらためてAPSカメラと出会い直し、当時はほとんど触れることのなかったAPS機にこんなにも興味深い機種と撮影体験があったのかと新鮮な気持ちで向かい合っている一人のアマチュアに過ぎません。

そして以下のような投稿が流れてくるあたり、多少なりとも再評価の流れがあるものと思われるのですが、それを手放しで喜ぶには少々気になる点があり、まとめておきたいと思った次第なのです。

 

  • お読みいただく前に 
  • APS(IX240)フィルムはすでに生産終了(2011年)から6年が経ち、全てのフィルムは有効期限を過ぎています。ブランドや保管状況にも左右されますが、すでに往時の性能を十全に発揮することは難しくなっていることをご承知おきください。
  • IX240フィルムの再生産や他のフォーマットのフィルムからの転用は今のところ不可能で、数年以内に全て撮影不能となるのが不可避な状況です。その前に、何かの縁でAPSカメラと出会うことになった皆さんがちょっと使ってみたいなと思ったときに、なるべく往時に近いパフォーマンスで試す手がかりになればと思います。
  • カメラと写真についての考えは様々です。よくわからないカメラで興味本位に撮ってみた不鮮明な結果が、自分にとって大事な一枚になることもあります。願わくはそういう機会につながりますように。

 

1.カメラ/レンズの入手性と考慮すべきポイント

APS規格のカメラ・フィルムが市販されたのは1996年からで、フィルムについては2011年に生産終了が発表されていますが、カメラの新機種については2000年代の早い時期に絶えています。また一眼レフにいたっては第一世代が後継機のないまま2000年にはディスコンになりつつあり、「APSフィルム一眼レフのすべて」で紹介されているカメラは現状で20年近くたっているプラカメばかりだということは知っておいていただければと思います。つまりメーカー保証はとっくに終わっていていつ壊れてもおかしくないということです。

しかし、APSが普及しきれなかったため、逆説的に35㎜機に比べて使い込まれておらず比較的状態が良いものが手に入りやすいのです。しかもフィルムがディスコンになったためジャンクコーナーの常連となっており、CONTAX Tixなどのごく一部の機種を除けば捨て値です。こういうの場合、1円・2円を争って時間を無駄にするのはとてももったいないので、ハード○フや都会のカメラ店のジャンクコーナーで適切な機種を見かけたら、お財布と相談して妥当な値段でさっさと拾ってくるのがよいだろうと思います。

ジャンクについてきにするべきポイントは、ファインダのカビ・曇り、ボディのひび、電池室の液漏れ(蓋周辺から緑の変色があらわれていないでしょうか)

一例として、以下のIX50はついこないだジャンクコーナーで拾ってきたものですが540円でした。いささか高めですね(笑) 

ジャンクコーナーで特に梱包などもなく、乱雑に置かれている中にありましたのが、電池を入れるとまったく問題なく動作しています。おそらくよほど(一見して明らかなヒビが入っている/電池室に液漏れがある など)のことがない限り撮影自体はできる状態だろうと思います。

レンズ交換式一眼レフとして見かけるのはおそらくMINOLTA(現 コニカミノルタ)のVectis S-1/S-100かCanon IXE/IX50が多く、NikonのPRONEA 600iがその次でぐっと下がってPRONEA Sが続くぐらいでしょうか。このあたりは店舗によってもずいぶん違うところです。

相場は数百円~3000円くらいではないかと思います。中古を探す際に気をつけるべきポイントは特に変わるものはありませんが、ざっくりポイントを書きますと以下のようになります。

*① MINOLTA Vectis シリーズ

  • 完全新規マウントのVマウントを採用しているためレンズも併せて入手する必要がありますが、現状ではミラーレス機に転用するようなマウントアダプター等も一般に入手できる形では存在しないためレンズも一部を除き捨て値です。レンズも含めて防滴のため、ズームを操作する際に空気の出入りがあって一瞬引っかかりを覚えることがありますが故障や油ぎれではないので安心してジャンク箱から拾っていいです。

*② CANON IX シリーズ

  • IXEのデザインは好きな人にはたまらないでしょう。専用レンズと一緒に見つかることは少ないですが、マウントはEFマウントを採用しているため、捨て値で売ってある標準/望遠レンズがそのまま使えます。

*③ Nikon PRONEAシリーズ

  •  専用レンズはありますが、Fマウントレンズがそのまま使えます。ただし、Fマウントのジャンクレンズは少々お高いことがあるので、そのあたりも考慮して探すといいでしょう。PRONEA Sについては周囲で動作不能になった個体の報告が増えている印象があり、またジャンク扱いで購入して一見電源が入ってもまともに動作しない、ということも続きましたので、内部のプラパーツや電装が寿命をむかえつつあるのではないかとにらんでいます。どうしても、というときは時間はかかってもきちんと動作保証が取れているものを探した方がよいでしょう。

ざっくりした印象ですが何らかの参考になれば。レンズ一体型一眼レフのOLYMPUS CenturionやFUJI EPiONについては先ほどの通常のジャンク基準での対応で大丈夫だと思います。

 

2.APSフィルム(IX240フィルム)の入手性について

さて、こちらが少々難しいフィルムの入手性です。現状ではヤフオクやメルカリ等のネットオークションでの出品を狙うのが現実的ですが、高騰しています。ここしばらくでも急激に相場が上がりました。半年前なら一本600円で高いな、と思っていたのが今では1000円前後です

これにはTwitter界隈で騒いでいた自身の言動も多少なりとも影響したところがあるのかと思わないでもないですが、逆にいえば相場が上がったからこそ次々出品が続いていて、まだまだデッドストックが眠っているのだなと今からは想像しがたい2011年ごろまでのフィルムの供給状況に思いをはせるところがあります。

以前であれば一本200円を切っていたというのが事実なのですが、これは考えようです。APS機とフィルムについては様々な事情であまり真正面からの評価がされてきませんでした。いま、あらためて多少なりとも評価がされ始めたからこそ相場が上がりつつあるととらえてみるのはどうでしょう。

当時投げ売りされていたものが、あとになって再評価され高騰するというのは音楽や絵画の世界でもよくあることです。少なくともゴッホの絵というわけではなくお小遣いの範疇で(なにせカメラとレンズが捨て値なので…)手に入るので、そこは面白い経験に投資するつもりで試すのが、安い出物を探して時間を消費するよりマシと考えるのもありだと思います。

ただ、精力的にフィルムカメラを扱っていらっしゃる店舗がデッドストックの取り扱いを始められるような気配がありますので、それを待つという選択肢もありでしょう。

なお、ハードオフのジャンクコーナーで単体108~324円で転がっていることはありますが、これは他の目的で回っているときにあったら儲けものぐらいのつもりでいくのが良いでしょう。また開封されたフィルムの保存状態はまったく期待できません。

 

3.選ぶべきAPSフィルム(IX240フィルム)の銘柄について

肝心の銘柄ですが、国内で手に入れられるのはフジのnexiaコニカのセンチュリア、コダックのAdvantixなどです。海外には他にもありますが、基本的にOEMと思われ、冷蔵品を謳う出品もありますが手を出すべきではありません。

そして2017年現在、なるべく十全にパフォーマンスを発揮させたいなら、選ぶべき銘柄にフジのnexiaしかありません。それもnexia 200がおすすめです。400も期限によってはありです。800はちょっとチャレンジングかもしれません。コダックコニカのものは、その粒子の荒れを楽しむなどの目的のない限りは積極的に選ぶべきではありません。

この点、写真についてはノイズや期限切れの描写を作品作りに活かすという分野もありえます(サークル「なんだかだるい」さんの『NO SELF CONTROL』はノイズを活かした誌面作りになっています)が、これはちょっと上級コースでしょう。

適切に管理された状態で保管されたフジのnexia 200は十年落ちでも大きな問題を感じさせません。適切でないとしても一段、二段の露出補正でかなり対処できます。以下、K.I.Mさんからの追加情報です。

この情報はフィルムの保管情報によって大きく左右されるものであることはお断りしなければなりませんが、このリストの範囲のフジ製フィルムであれば「まず撮ってみたい」「試してみたい」という用途なら実用になると考えてかまいません。

また、露出補正ができない機種でアンダーになったとしても、現在の一般的なパソコン・スマホであれば、現像後のスキャン画像を補正することである程度実用範囲を広げることもできます。このあたりは時が味方してくれるようになった数少ない例、といえるかもしれません。

こちらはカズさんとK.I.Mさんによる海外製のFnac(期限表記なし)によるものですが、きちんとした保管を謳うものでもなかなか厳しい写りです。(これを表現としてあえて狙うという技も、前述のようにありはします)

これはどこかでまとめないといけないなと思い当たりましたが、自動化の進んだAPSのコンパクトカメラ(というより自動化の進んだ当時のあるセグメント向けのフィルムコンパクト全般の傾向かもしれませんが)には一部を除いて露出補正の手段がない(そのものでなくともフィルム感度等で代用可能な機能も含めて)ものが多いのです。そのため、なるべく新しめのフィルムを使うのがおすすめと言うことになりますが、フィルムの入手についてどうしても限界がありますので、とりあえず試すのであったら出てきた画像を楽しむぐらいの方がかえって面白い結果と出会える(それはAPSフィルムの本来のパフォーマンスではないでしょうけれども)のではないかと思います。

以下は私の試写です。nexia400によるものが中心ですが、私の用途では充分に写っていると言っていいと思いますが、皆さんはいかが思われますか?

 

4.現像の対応状況とスキャンデータ(フジフォトCD)利用のすすめ

さて、そんな2011年に生産終了したAPS(IX240)フィルムに興味が沸いたところで、一体現像をどうしたらよいの?という疑問があると思いますが、実はたいていのDPEではまだAPSフィルムの現像ができます上記の撮影もすべて地元のDPEに持ち込んだものです。

実は、いまDPEに入っているフジフィルムの現像・プリント機器(デジタルミニラボシステム)であるところのフロンティアシリーズは、APSのころから更新されていません。フィルムの衰退ぶりというか、そもそもAPS規格の登場についての生臭い話になってきますが、そのあたりは触れないことにして、おかげさまでいまでも35㎜フィルムを注文するのとまったく同じ感覚でAPSフィルムの現像やスキャンを依頼することができます

ただ、お店によってはAPSの現像に必要な機器を処分している場合もあるのでそのときは別のラボに転送されることになり、ちょっと時間がかかるかもしれません(店舗で現像していない場合のモノクロや120フィルムと一緒です)。

現像、プリントとも料金は135判と変わらない場合が大半だと思います。おそらく現像が600円前後、それとL版同時プリントで合わせて1800円ぐらいではないでしょうか。サービスデーなどでもっと安い場合ものあるでしょう。

また、現像の際お使いの方も多いと思いますが、「フジカラーCD」といってフィルムをスキャンしたデジタルデータをCDに焼いてもらえるサービスにたいていのお店は対応してるはずです。

フジカラーCD | 写真のネットプリントサービスなら【富士フイルム】

そして最近はお店独自にその写真データをお持ちのスマホ等のデジタルデバイスに転送してくれるサービスを行っている場合もあります。SNSへの投稿を考えれば一番使いやすい方法です。

APSフィルムのスキャンについては項を改めたいと思いますが、個人で行うには少々ハードルが高くなりつつあります。

国内のメーカーが出していたフィルムスキャナーにはAPS用のアダプタをオプションで使用できるものがありましたが、現在では全て製造終了しています。そのため中古の流通を探すしかありませんが、とくに後期の製品について上級機ほど高騰している現状があります。

また、ドライバーのアップデートが行われていないことから、現在のWindows 10やMac OSで使用することは難しくなっており、互換ドライバの使用や設定ファイルの書き換え、またはスタンドアローンでの専用環境の構築など、一定以上のスキルがないと利用することが難しい状況です。

また35mmや中判フィルムのスキャンついては海外製品ではまだ専用機が更新されており、よほどAPSでの撮影に本腰を入れない限りは個人でのスキャンは手を出さなくてよい領域です。

ちょっと余談になりますが、少し前に「フジのフォトCDのデータサイズが小さすぎておかしい!」というコメントが流れてきたことがあります。

たしかにフジのフォトCDは決して高解像度ではありません。もちろん製品が更新されていないから低解像度なのだというのは言えますが、しかし、ずっと写真と付き合ってきたフジという大メーカーのノウハウの蓄積はもっと素直に頼ってよいものです。それで充分市井のセミプロやハイアマの要求に応えて来たという事実をまずは信頼していいのではないでしょうか。

私たちはすでに画素数だけがてんこ盛りで実際はノイズの嵐で酷い画質のコンパクトデジタル末期の悪夢で十分に思い知らされたはずです。フォトCDのデータを元に、家庭用プリンタで適切に設定して出力したとき、え、こんなに引き延ばせるの?!とびっくりすることになると思いますよ。

前掲の写真は全てフジのフォトCDにしてもらったデータを縮小したものです。

 

まとめ

ざっくりしたまとめです。APSのなにがAdvanceであったのかとかそのあたりはまた別の機会に何とかするとして、とりあえず2017年8月現在に興味を持たれた皆様が挑戦してみようと思われたときに少しでも参考になれば幸いです。

 

2017.08.13 公開

2017.08.14 追記 (機種・現像・スキャナの対応など)

2017.08.14 追記 (フィルムの期限・撮影結果など)