光画図書室閉架書庫

写真史や撮影行為にまつわるあれこれを放り込む納戸。

米谷紅浪「画題に就て」(永見徳太郎『夏汀画集』(1912年)への寄稿)

永見徳太郎の『夏汀画集』には徳太郎(夏汀)の挨拶に続いて八名の寄稿があります。そこに並ぶ顔ぶれは郷土の関係者と写真関係者に大きく分かれますが、故がついていることからもわかるように将来を嘱望された画家であり、徳太郎と同世代の渡邊よ平(渡辺与平)はこの年(1912)に急逝しています。

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八先生へ
 
此畫集を発行せんとするに當り左の諸先生達に御願ひして厚き同情を得て有益なる記事を御送り下さつた事は難有御禮申します
春に發行しようと思ふていろいろと急ぎましたけれども、いろんな事情の爲めに残念乍ら秋に延びました罪は御許し下さい

夏汀生

 

故 渡邊よ平 先生
三宅克己 先生
森長瓢 先生
坂井犀水 先生
宗得蕪湖 先生
米谷紅浪 先生
吉野誠 先生
淺野金兵衛 先生

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先の夏汀画集序文の項でも述べたように、米谷紅浪は寄稿のなかで薄雷山(薄恕一)の「雷山画集」について触れているのですが、当時の関西の雰囲気の記録でもあり、また彼の画題へのこだわりが伝わってくるのが興味深いのです。ただ、余程の長文であったのか中略・後略があるのが残念なところです。ひょっとして長崎県歴史博物館に寄贈されている永見の書簡集の中に残っていたりしないのか、と思うのですけれども…

候文で句読点もないため慣れないと読みにくいところがあります。そのうち口語訳をつけようと思います。

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畫題に就て

米谷紅浪

前略
小生は貴兄と同じく或は一層若きカメリストにして浪華寫眞倶樂部中の最年少者に御座候従つて斯界に未だ日淺く不熟の技は到底過當なる御讃詞に價せざる可きを恥ずる者に御座候今般夏汀畫集御發行の由何よりの御事と存じ候過去幾年に捗る趣味多き而して愉快なる御苦心を以て滿されたる畫集の若葉風の下に繙かれたる時御快心の程さこそと御察し申上候當地にては先年薄君の雷山畫集を發行せられたるのみにて其後同人間に幾多の計畫を聞しも未だ[中略]とまれ貴畫集の斯界同好者に對する甚大なる反響、新しき趣味に充滿せる最良の参考書として小生は樂んで發梓の日を待つ者に御座候

小生は畫題に對し深き趣味を有する者に御座候凡そ畫として構圖よりも調子よりも感じの最もよく現れたる者が最良の價値ある者とすれば随って畫題に對し重大なる注意を要するや必然にして調和せざる畫題の爲め折角の名作も可惜何等の威を引起さざる例も決して起からず候此意味に於て單に風景等といふ漠然たる畫題の下に發表せらるヽ事は寫眞として最も趣味多き畫題にする研究を無視せられたる者として小生は絶對に反對を唱ふる者に御座候然し乍ら畫に對するシックリ合った畫題の選擇に随分困難なる事にて寫眞文學?に多大の研究を要せざれば能はざる事と存じ申候而して小生は畫題研究主義者として常に甚しき不足を感じ居る小生の貧弱なる頭脳を呪ふ者に御座候
何だか分らない事を長々として書き連ね御目をけがし申候