夏休みの自由研究「身の回りの色んなもので現像してみよう」
twitterの方でつぶやいた「身の回りのもので現像できるものはなにか」という話題のメモです。もちろん自由研究というのは冗談で実際に試したわけでもありませんが、理科に強い小学校高学年ぐらいからなら本当にここからアイディアを得ることができるかもしれません。ただし、内容については全く保証できません(汗)。
なお、ここでいう現像とは銀塩写真についてをいい、感光材料の上に撮影されたそのままでは目視できない潜像を薬品で処理して目に見えるようにすることで、デジタルカメラ(スマホ)のRAW現像ではありません。
現像の一般的なやり方はネット上でも多数公開されているのでまずはそちらをご確認ください。
閑話休題。
美白化粧品現像
あと美白化粧水現像(主成分がハイドロキノン)は多分できる。どこかにレポートもあった気はする。
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
いきなり化粧品!となるかもしれませんが、美白効果が指摘されるハイドロキノン(ヒドロキノン)はもともと現像主薬なので、自由研究レベルの現像(どんな結果(=出てくる像)になるかは分からないが、なにがしかの像は出る)のは確実です。
もちろん濃度などが関わってきますし、その化粧水に他に何が含まれているのかについても変わってくるでしょう。肌につけるものなので安全性は一定担保されていると思います。
コーヒー現像/紅茶現像/ビール現像
ヒドロキノンを含んだ食材は現像に(何らかの像は出る、という自由研究的な意味では)使えるとして、何がどれくらい含んでいるかとなると色々怪しい。ビールとかワインもこれなのだろうか?
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
コーヒー、紅茶、緑茶、ビール、ワインで現像できて、どうやらタバコの主流煙・副流煙にも含まれているらしいので現像は嗜好品と相性が良い(本当にタバコで(自由研究レベルでも)現像できるかは知らない
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
ハイドロキノンは結構多くの食材に含まれていて、コーヒー現像はこの手の話題の定番です。紅茶現像もほぼ理屈は同じです。
ビール現像、発泡酒や第三のビールでは駄目というのが確かなら主要な現像主薬は麦芽由来のハイドロキノンか。コーヒー現像と比較できる、かも。
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
緑茶現像/ワイン現像
緑茶も定番です。ネットを検索すると緑茶・ワインともハイドロキノンが含まれているという記述にあふれていますが、美容・健康系の文献は表現が誇大に過ぎちょっと眉につばをつけてみなければいけないところがあります。どちらもポリフェノールとまとめられるあたりのカテキンとかのほうの作用ではないかと。紅茶と現像結果に差が出るとしたらその辺りではないかと思います。探求してみてください。
あー、緑茶現像はできても抹茶現像はうまくいかないという指摘が本当なら緑茶現像で現像主薬になっているのはやっぱりカテキン(いわゆるポリフェノールとして)だろうか。
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月17日
緑茶(煎茶)では現像できて抹茶現像がうまくいかないという話が本当ならおそらくそうです。そういう意味で、赤ワインでは現像できても白ワインは難しいかも。
そういう意味で、赤ワインでは現像できても白ワインでは難しいはず。多分赤ワインも現像主薬になっているのはポリフェノール。
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月17日
(2023/09/15 追記)結局、緑茶現像の情報が載っている雑誌(今は亡き「写真工業」2006年8月号)を取り寄せました。試してみるとならば役立つ記事かと。
半年点検の待ち時間中に再読。見開き2頁の記事で原理の部分などはほぼ省略されているが記録として貴重。ただ、「現像一回(一本)ごと」に茶葉15g(!)、炭酸ナトリウム15gを消費する現像液のどこが自然に優しいことになるのかはわからなかった。 pic.twitter.com/Dm3AzFjNE3
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年9月2日
ただし、タイトルの「自然に優しい緑茶現像液」というのは端的に嘘だと思います。この件については近衛騎兵さんのおっしゃる「大量のサツマイモと松根で戦闘機を飛ばしている様なもの」というのが妥当な評価でしょう。
大量の薩摩芋と松根で戦闘機飛ばしてる様なモンですなぁ。
— 近衞騎兵 (@ranzosha) 2023年9月2日
野菜スムージー現像
野菜スムージー現像?!現像主薬はシュウ酸なのだろうか。
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
野菜のスムージーで現像できるという話題です。ちょっとこれは自信がありません。銀塩ではなく鉄塩写真のほうかもしれません。ハイドロキノンが多く含まれた果物なのかもしれません。ビタミンCという線もあるのかもしれませんが。
なんらかの野菜/果物のジュースあるいはスムージーでのフィルム現像が(自由研究的な「何らかの像が浮かぶ」レベルとして)できるのは確実だが、どの野菜/果物ならというレシピはなかなか見当たらない。なおバジルはいけるらしい(しかし、庭/畑の状態で現像結果が変わるってそりゃそうだろうが…
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年9月15日
日本酒現像は多分無理じゃないかな…
戦前の日本酒現像液の記事を見つけましたが、これジョーク(というか体制への皮肉)記事ですね。多分日本酒では現像できないのじゃないかなぁ… https://t.co/DzPOMnDmtT
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
日本酒で現像するという話題は戦前の「カメラ」誌(ARS社)の記事にあるのですが、これは「水の代わりに日本酒/ビールを使う」というものでパロディというかジョーク記事というか、統制が強められていく戦時体制への皮肉を込めた記事に思います。
すくなくとも日本酒単体で現像するのは無理ではないかな…と思いますが、どうなんでしょうか。
周囲を化学の目で観察すること
現像(現像主薬=還元剤)に使える身の回りのもの(化合物)は思った以上にたくさんある。(安定的に結果を出せるかは別)
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
現像というのは還元作用なので結果に質を求めないなら色々試すことは出来ると思います。それこそ写真史の歴史は薬品開発の歴史でもあるので先人の取り組みを調べると没食子酸から緑茶が想像されるように色々と発想の元は出てくるでしょいう。
あと現像に使えそうなの色々わかってきたけれど、劇物多くてとてもてをだせない。市販の薬品、超安全で結果も優秀、コストも安い。ありがたさしかない。
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
身の回りのものでの現像に注目が集まるのは二つの理由があると考えられます。一つは銀塩写真が日常生活を支えるものから趣味・表現の分野のものになって現像インフラが身の回りから無くなって今後いっそうの薬品類の入手困難が想定されることです。身の回りのもので現像できるならありがたいということですね。
またもう一つは環境意識の高まりで「自然由来のものを使った現像なら環境負荷が低いのではないか、自然に優しいのでは?」という考えが生まれがちなのだろうということです。
恐らく両者とも難しい、成り立たないと思うのですが、これらの取り組みを通して「安全であること、安定していること」という意味で既製の薬品の素晴らしさを再認識することになるかもしれません。
そして「安いこと」も重要です。日本酒といい、ビールといい、ワインといい、実はコーヒーにしろ紅茶にしろ「それで現像したらものすごく高くつく(しかも結果は安定しない)」というのは継続する上では障害になっていくでしょう。
「自然由来の」現像液の環境負荷について
コーヒー現像にしろ、ワイン、ビールにも炭酸ナトリウムの添加は必須だろう。お茶のときは少なめでもいい?ぼちぼち哲学科卒の限界。
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
しかしこれらの身の回りにあるものを使って現像液を作ったとして、それが一部で言われるような『環境によい』ものになるとは(見た目レベルから)とても思えないのでそういう意味ではレポートに意義があるかもしれないなと。
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年8月16日
市販の現像液(または公開された処方)は現像主薬以外に色々な薬品が入っています。安定的な結果を求めるにはそれが必要なわけで、身の回りの「自然なもの」の成分を現像主薬にしたとしても安定的な結果を求めるにはやはりそれらの添加が必要です。
そもそも「自然なもの」のなかの現像主薬となる成分を使っているわけだから、現像関係の薬品に懸念されるほどの環境負荷があるなら身近なもの由来の現像液にも同じだけの環境負荷があり、また現像薬以外の成分が余計に含まれるだけに環境負荷はかえって高くなるのではと思われます。
しかし、それらが(例えば)身近な食材であるならそれらは往々にして趣味の現像よりよほど頻繁にかつ大量に下水に流されているはずです。その先の下水道のインフラはどうなっているのか。
私たちはつい環境と自分たちが直結しているように想像してしまいますが、それはある意味思い上がりで、先人達が整えたインフラは私たちを幾重にも自然から切り離しています。
これらの現像に本当に取り組んでみると身の回りのものの見え方が変わって、私たちをとりまくインフラについての認識が深まるというのは大いにあることだと思います。こういう方面に接続するのも面白いかもしれませんね。
2023/09/15 追記 おまけ(ビタミンCについて)
この手の話題でしれっと「それだけでは弱いので補助としてビタミンCを追加する」という記述が差し込まれていることがあるのですが、かなり問題含みな記述といいますか。
代替処方というか緑茶でも紅茶でも赤ワインでもビールでもいいが、それらで現像すると称するレシピ、それらに補助でビタミンCを足していたらそちらが黒幕(ビタミンC=アスコルビン酸=伝統的な現像主薬そのもの)です。なんなら表の現像主薬を抜いてビタミンCだけで現像した方が結果は安定するかも。
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年9月6日
多少加えるなら補助ですが、バンバン加えているようなのはもうそっちが現像主薬だろうという。
脇役のような顔をして実は黒幕、世間に受ける好青年を表に立てて裏で暗躍するフィクサーというはありがちなドラマのプロットかも知れませんが、これらの「自然に優しい」「環境に良い」という看板の影をよく見つめてみることだと思います。
そして、そこに隠れているのは別に悪者ではなくて「現像というドラマを支えている、本来は主役を張るべき実力派」なのかもしれません。
なお、ビタミンC(アスコルビン酸)を現像主薬とする現像液もちゃんと市販されていました(例えばコダック X-TOLなど)。
最後におまけのおまけ
「私たちが日頃口にする100%ジュースのなかでも日々現像はおこなわれているのだよ!」
そうか!だからビタミンCは酸化防止剤として働くのか(スイカジュースの成分表をみて(美味しくない(現像の話
— 播磨屋 市蔵 (@afcamera_mania) 2023年9月9日
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