書肆萬年床光画関係資料室

写真史や撮影技術、カメラ等について研究趣味上のメモ置き場

夏休みの自由研究「身の回りの色んなもので現像してみよう」

twitterの方でつぶやいた「身の回りのもので現像できるものはなにか」という話題のメモです。もちろん自由研究というのは冗談で実際に試したわけでもありませんが、理科に強い小学校高学年ぐらいからなら本当にここからアイディアを得ることができるかもしれません。ただし、内容については全く保証できません(汗)。

なお、ここでいう現像とは銀塩写真についてをいい、感光材料の上に撮影されたそのままでは目視できない潜像を薬品で処理して目に見えるようにすることで、デジタルカメラスマホ)のRAW現像ではありません。

現像の一般的なやり方はネット上でも多数公開されているのでまずはそちらをご確認ください。

閑話休題

美白化粧品現像

いきなり化粧品!となるかもしれませんが、美白効果が指摘されるハイドロキノン(ヒドロキノン)はもともと現像主薬なので、自由研究レベルの現像(どんな結果(=出てくる像)になるかは分からないが、なにがしかの像は出る)のは確実です。

もちろん濃度などが関わってきますし、その化粧水に他に何が含まれているのかについても変わってくるでしょう。肌につけるものなので安全性は一定担保されていると思います。

コーヒー現像/紅茶現像/ビール現像

ハイドロキノンは結構多くの食材に含まれていて、コーヒー現像はこの手の話題の定番です。紅茶現像もほぼ理屈は同じです。

 

緑茶現像/ワイン現像

緑茶も定番です。ネットを検索すると緑茶・ワインともハイドロキノンが含まれているという記述にあふれていますが、美容・健康系の文献は表現が誇大に過ぎちょっと眉につばをつけてみなければいけないところがあります。どちらもポリフェノールとまとめられるあたりのカテキンとかのほうの作用ではないかと。紅茶と現像結果に差が出るとしたらその辺りではないかと思います。探求してみてください。

緑茶(煎茶)では現像できて抹茶現像がうまくいかないという話が本当ならおそらくそうです。そういう意味で、赤ワインでは現像できても白ワインは難しいかも。

(2023/09/15 追記)結局、緑茶現像の情報が載っている雑誌(今は亡き「写真工業」2006年8月号)を取り寄せました。試してみるとならば役立つ記事かと。

ただし、タイトルの「自然に優しい緑茶現像液」というのは端的に嘘だと思います。この件については近衛騎兵さんのおっしゃる「大量のサツマイモと松根で戦闘機を飛ばしている様なもの」というのが妥当な評価でしょう。

野菜スムージー現像

野菜のスムージーで現像できるという話題です。ちょっとこれは自信がありません。銀塩ではなく鉄塩写真のほうかもしれません。ハイドロキノンが多く含まれた果物なのかもしれません。ビタミンCという線もあるのかもしれませんが。

 

日本酒現像は多分無理じゃないかな…

日本酒で現像するという話題は戦前の「カメラ」誌(ARS社)の記事にあるのですが、これは「水の代わりに日本酒/ビールを使う」というものでパロディというかジョーク記事というか、統制が強められていく戦時体制への皮肉を込めた記事に思います。

すくなくとも日本酒単体で現像するのは無理ではないかな…と思いますが、どうなんでしょうか。

周囲を化学の目で観察すること

現像というのは還元作用なので結果に質を求めないなら色々試すことは出来ると思います。それこそ写真史の歴史は薬品開発の歴史でもあるので先人の取り組みを調べると没食子酸から緑茶が想像されるように色々と発想の元は出てくるでしょいう。

身の回りのものでの現像に注目が集まるのは二つの理由があると考えられます。一つは銀塩写真が日常生活を支えるものから趣味・表現の分野のものになって現像インフラが身の回りから無くなって今後いっそうの薬品類の入手困難が想定されることです。身の回りのもので現像できるならありがたいということですね。

またもう一つは環境意識の高まりで「自然由来のものを使った現像なら環境負荷が低いのではないか、自然に優しいのでは?」という考えが生まれがちなのだろうということです。

恐らく両者とも難しい、成り立たないと思うのですが、これらの取り組みを通して「安全であること、安定していること」という意味で既製の薬品の素晴らしさを再認識することになるかもしれません。

そして「安いこと」も重要です。日本酒といい、ビールといい、ワインといい、実はコーヒーにしろ紅茶にしろ「それで現像したらものすごく高くつく(しかも結果は安定しない)」というのは継続する上では障害になっていくでしょう。

「自然由来の」現像液の環境負荷について

市販の現像液(または公開された処方)は現像主薬以外に色々な薬品が入っています。安定的な結果を求めるにはそれが必要なわけで、身の回りの「自然なもの」の成分を現像主薬にしたとしても安定的な結果を求めるにはやはりそれらの添加が必要です。

そもそも「自然なもの」のなかの現像主薬となる成分を使っているわけだから、現像関係の薬品に懸念されるほどの環境負荷があるなら身近なもの由来の現像液にも同じだけの環境負荷があり、また現像薬以外の成分が余計に含まれるだけに環境負荷はかえって高くなるのではと思われます。

しかし、それらが(例えば)身近な食材であるならそれらは往々にして趣味の現像よりよほど頻繁にかつ大量に下水に流されているはずです。その先の下水道のインフラはどうなっているのか。

私たちはつい環境と自分たちが直結しているように想像してしまいますが、それはある意味思い上がりで、先人達が整えたインフラは私たちを幾重にも自然から切り離しています。

これらの現像に本当に取り組んでみると身の回りのものの見え方が変わって、私たちをとりまくインフラについての認識が深まるというのは大いにあることだと思います。こういう方面に接続するのも面白いかもしれませんね。

nandakadarui.booth.pm

aremo-koremo.hatenablog.com

2023/09/15 追記 おまけ(ビタミンCについて)

この手の話題でしれっと「それだけでは弱いので補助としてビタミンCを追加する」という記述が差し込まれていることがあるのですが、かなり問題含みな記述といいますか。

多少加えるなら補助ですが、バンバン加えているようなのはもうそっちが現像主薬だろうという。

脇役のような顔をして実は黒幕、世間に受ける好青年を表に立てて裏で暗躍するフィクサーというはありがちなドラマのプロットかも知れませんが、これらの「自然に優しい」「環境に良い」という看板の影をよく見つめてみることだと思います。

そして、そこに隠れているのは別に悪者ではなくて「現像というドラマを支えている、本来は主役を張るべき実力派」なのかもしれません。

なお、ビタミンC(アスコルビン酸)を現像主薬とする現像液もちゃんと市販されていました(例えばコダック X-TOLなど)。

最後におまけのおまけ

「私たちが日頃口にする100%ジュースのなかでも日々現像はおこなわれているのだよ!」

ナ ナンダッテー!!
 Ω ΩΩ

 

関連領域

夏休みの自由研究として取り組むならこの辺りもありかもしれません。リンクの紹介のみ。

dc.watch.impress.co.jp

ja.wikipedia.org